「心に花を咲かせよう:私と合唱と震災」
■聞こえる
音楽は無力だ。私はそう強く思った事がある。
そして、これからもそのような状況に何度も直面するだろう。それでも音楽を学び、演奏を続ける理由はなんだろう?
私に合唱の道が開いたのは、皮肉なことに悲しい出来事がきっかけでした。
そもそも、私が合唱に興味を持ったのは、ある曲がきっかけでした。その曲のタイトルは「聞こえる」。これは日本人による作詞作曲の曲です。
”教えてください 何ができるか
何ができるか 教えてください”
この曲の歌詞には、世界中から聞こえる情景の前に自分が何もできないことに対してのいらだちを覚え、葛藤する様子が描かれています。中学生の頃、初めてこの曲を聴いた時、その冷たく繊細で、一言で言葉にできない複雑な気持ちを表した響きに衝撃を受けました。
そして数年後、私はこの歌詞の主人公のように何もできない自分と向き合うことになるのです。
■3.11
2011年3月11日、大きな出来事が日本を襲いました。
東日本大震災です。
この災害は、宮城県牡鹿半島の東南東130km付近で発生しました。マグニチュードは9.0。日本国内観測史上最大、アメリカ地質調査所(USGS)の情報によれば1900年以降、世界でも4番目の規模の地震でした。
この震災での死者と行方不明者は2万人を超えました。また、多くの建物が破壊され、海沿いの街は壊滅的な状態になりました。さらに、原子力発電所の事故も発生し、今も多くの人が住んでいた場所に戻れていません。
日本は、外国に比べて台風、大雨、大雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山噴火などの自然災害が発生しやすい国土です。
そのため、日本人にとって地震や津波は珍しくありません。日本の学校では、これらの災害に備えて、年に数回の避難訓練が義務づけられています。
つまり、私たちは、子供のころから常に災害を意識し、備えているのです。
しかし、前例のない災害を前に私たちは無力でした。
私の地域は幸いなことに大きな被害を受けませんでしたが、その後の余震、錯そうする情報。日に日に増えていく、悲しい知らせ。
まるで、自分が大きな被害を受けていないことが罪だと感じるほどでした。
■復興支援の意味について考える
それから1年ほどたった時、友人に誘われて合唱団に参加。震災復興支援のための活動することになるのです。
そして、実際に被災地を訪れてワークショップとコンサートを行う機会が訪れます。
しかし、いざ被災地を訪れることになった時、私たちは、迷いました。
自分たちの活動が本当に役立つのか、被災地した方々にとってニーズと私たちの活動が合致しているか、疑問に思ったからです。
大切な人や住んでいた家を失い、ライフラインも十分ではない中で生活している人に私たちの歌がなんの役に立つというのでしょうか。
当時、復興支援のために多くの団体が被災地を訪れて活動していました。しかし、ただパフォーマンスをして帰る状況に疑問の声もありました。支援をしてあげているという構図を生み出し、被災した方々が本当に求めている支援とは異なる場合があったからです。
■被災地で感じたこと
私達は、何度も話し合いながら、活動の意義について考えました。私達の選択を被災地の方々がどう受け取ったのかは、正直分かりません。
しかし、この訪問をきっかけに、私たちは、地元の小中高等学校も含めて数多く交流し、現地の人々との交流は今も続いています。
私はこの時自分たちが演奏をする意味や誰かに寄り添うことの難しさ、今生きている私たちにできることなど、語りつくせないほど多くのことを学びました。
被災地の方々が語って下さった、私たちが想像していたものとは違う視点の悩みや悲しみ、そして、喜び。
合唱には、ライフラインとは違う何かがあるのだと気づきました。
■分かち合うということ
”愛はたがいにわかちあうもの
ゆずって ゆるして てをたずさえる”
日本人はひらがな、カタカナ、漢字の3つの文字を使います。そして、歌詞を読むときは、詩を書いた人が、なぜ漢字ではなくひらがなを使ったのか、など文字の種類からも作者の意図を読み解くことができます。
震災をきっかけにして作曲されたこの歌は、一般的に漢字で表記される単語もひらがなで書かれています。
そのことから、やさしさや温かさを伝えようとする、詩人の意図が伝わってきます。曲も1,2番の終わりでは、少し落ち着いて終わり、
後半は、個人の心の叫びを表すようにそれぞれのパートが独立して絡み合い、喜びや悲しみ、葛藤が決意に変わったような響きになります。
音楽は時として無力です。
しかし、私達は、音楽という言葉や言い表せない感情を表現し、共有する手段を使って、つながることができる。
そして、私たちが困難な状況に立ち向かい、乗り越える力を与えてくれる。
■大いなる自然
この時の災害を境に、日本では毎年のように各地で観測史上最大を記録するさまざまな災害が起きています。
日本の美しく豊かな自然は、時として、大きな災害をもたらします。しかし、先人たちは、豊かな恵みをもたらし、時に私たちから大切なものを奪う、大いなる自然と共存して生活してきました。
そして、私たちも。
そんなことを考えた1日でした。