案内係やーぼのブログ

コンサートホールで案内係をしている著者が、出演者・聴衆・スタッフの思いが響き合い乱反射する、劇場の魅力を語ります。

倉敷を散歩しながら歴史的建物の保存について考える

■数年ぶりに、倉敷にやってきました。

せっかく、瀬戸内国際芸術祭2022を訪れるなら、倉敷も散歩したいと思い、岡山に宿泊していました。初めて倉敷を訪れたのは数年前で、今回は2回目の訪問です。

東京では、駅とビルが一体化していて、大きな駅であっても駅の本体がどこにあるのか分からないことがありますが、倉敷駅は、はっきりと分かります。


倉敷を訪れたかったのは、以前訪れた時に見た、倉敷美観地区の街並みが素敵だったからです。しかし、その時は、歌の講座を受けるために訪れていたため、力尽きていたので、今回は、その時のリベンジです。

■私は、小さいころから歴史ある建物を保存することに興味がありました。なぜかというと、私の両親の実家はどちらも歴史ある建物で、それらを私達の世代でも住める状態で残していきたいという思いがあったからです。

しかし、時は経ち、実際には実現できていません。今は、住む人を失い廃墟になっています。本当は、私もご先祖様から受け継いだ建物を修繕して、使い続けたい。それに、私は歴史ある建物の放つ、重厚で細やかでな存在感がとても好きです。

だけど、理想と現実はかけ離れ…。

なので、歴史ある建物を修繕・保存している人々には頭が上がりません。
本日も聡明な先人たちが修繕・保存した建物を物色します。

■国指定重要文化財 大橋家住宅

一件目の物件は、倉敷町屋の典型を示す代表的な建物で、主屋や長屋門米蔵・内蔵の4棟が、昭和53年(1978)に国の重要文化財の指定を受けた「大橋家住宅」です。


外から見ると、料亭のようです。

大橋家住宅は、倉敷の美しい街並みを保存した「倉敷美観地区」の川沿いから少し離れたところにあり、近代的な建物に囲まれた閑静な場所にあるのですが、白い壁と瓦屋根のたたずまいは、現代の風景にもマッチして素敵です。


入り口を入ると玄関のような場所があり、そこで受付と数分ほどの見学の際の注意事項のテープを聞きます。その後、主屋への通行を許されます。

目的地を訪れて、一息おけるスペースって、いい感じです。うちにもほしい。

■入り口でもらったパンフレットによると、

「主屋は入母屋造り(いりもやづくり)で本瓦葺き(ほんかわらぶき)、屋根裏に部屋と厨子(ずし)を設けた重層の建物が主体となり、東には平屋建ての座敷があります。」とのこと。

こういう文章を読むと、日本育ちの日本人なのに、日本の建築について知らないことばかりだなと改めて思います。アナウンス原稿として渡されたら、絶対にかむと思う。

音楽もそうですが、ほかの国のことは必死に学ぶのに、日本のことは分かったつもりになって軽んじている風潮がありますし、自分もしっかり学べていないなと感じています。

 

少し話が変わりますが、私は、伝統的な建築や着物が好きですが、それらを「古風なものが好き」という風に、ひとくくりにするのは違う気がします。

着物は好きですが、昔の色合いがすべて好きかと言われると、そうではありません。

 

私の好きな色合いは、現代的なものですし、建物も豊島美術館のように近代的なものも好きです。

それから手作業でしか出せない、機械的でない感じが好きなので、和柄だったら良いというのではなく、和柄プリントはあまり好きではありません。

そこに投入されている言葉に出来ない美しさが、好き。媚びたりおもねったりしない美しさを感じたとき美しいと思うのかも。

うまくまとめられませんが、伝統的な建物を巡るとそれらに出会えます。

今後は、建築についても学びたいな。入母屋造り(いりもやづくり)」について、説明しているサイトがあったので、自分用に添付しておきます。

nara-atlas.com




主屋の中は、上がって見学することができます。
とても広くて、細部に住みやすさや作業のしやすさの工夫が感じられることが、本物を見学する魅力だなと思います。きっとこんな風に考えてこうしたのかなーと想像が膨らみます。


主屋は、とても広い。途中で自分がどこにいるのか一瞬分からなくなりました。さっきもここを通ったはず…。屋敷の中で迷子になりかける。

最も気に入ったお部屋がこちら。書斎です。


下地窓(茶色の壁に丸く空いた、竹のあみあみになっている部分)いいなー。


奥からの眺めはこんな感じ。私の部屋もこんな風にしたい。この日は、私以外の見学者はほんの数名だったため、しばらく机の前に座って住み心地をチェック。

コンパクトさが絶妙で、冬は寒そうですが、お庭も眺めることができていい感じです。


このお部屋は、土間に面した場所にあり、館内図には「居間」と書かれています。和と洋のコーディネートのバランスが絶妙で、畳の上に敷かれた絨毯と部屋全体が調和して美しすぎます。


そして、壁にかかっている時計の文字盤は今まで見たことのない仕様。どうやって読むのだろうか?

■屋敷の復元について

受付でもらったパンフレットによると

大橋家住宅は、『平成3年~7年にかけて、3年4か月を要した建物の解体を含む保存修理工事が行われ、最も屋敷構えの整った嘉永(かえい)4年(1851)の姿に復元され、当時の格式の高さと繁栄ぶりを伺い知』れる現在の姿になったのだそう。

私は、失われてゆく江戸・東京の歴史的な建物を移築保存し野外展示する「江戸東京たてもの園」が好きで、学生の頃は年間パスポートも持っていたのですが、こんな風に大変な労力と費用をかけて残してくれた人々がいたから、私が今こうして時代を超えてこの建物に出会えたのだなと思うと感謝があふれてきます。

また、土間にはこんな展示が。


この大橋家住宅は、2018年10月の西日本豪雨の際、約200年前に主屋の座敷などとともに建設された土塀(漆喰の白壁)が、倒壊してしまいました。しかし、従来の柱などをなるべく再利用する方向で現在の姿に復元されたのです。

あの美しい白壁は、彼らの努力によって蘇ったものだったのですね。

倉敷美観地区

このエリアは、倉敷市の美観地区景観条例に基づき定められた地域で

白壁の蔵屋敷、なまこ壁、柳並木など伝統的な建物が作り出す町並みが美しく、初めて訪れた時、こんな場所があるなんて、「江戸東京たてもの園」みたいと感動。作りものではない何かを感じました。

そして、ぜひ、もう一度訪れたいと思っていたのですが、そのまま時は流れ…。ようやく訪れることができました。


なんて素敵な眺め。ちょうど、向こう側から船がやってきて絵になります。

どの建物を見ても、足が止まるほど美しくて、ワクワクします。そして、保存されているだけでなく、入って見学したり、実際に使用されているところが素晴らしい。

大原美術館


1930年に建てられた日本最初の西洋美術館「大原美術館」。前回は休館日だったので、念願の初訪問です。

大原美術館は、作品も建物も見どころ満載で、途中から何を鑑賞したらよいのか、何を鑑賞しているのか、頭が飽和状態になりました。

私は、美術館で鑑賞すると頭が飽和状態になって、疲れてしまうのことがあるのですが、ほかの人はどうなのだろう?

豊島で作品鑑賞のために歩いた時も、足が疲れたというより、鑑賞でエネルギーを使った感じがしました。

■旧大原家住宅

そんなこんなで、よろよろしながらも、こんな興味深い建物があったら入らずにはいられません。休憩をしていたら新幹線の時間になってしまいます。

ということで、次の物件に潜入します。


こちらは、国の重要文化財に指定されている「旧大原家住宅」です。

「旧大原家住宅」の玄関を入ると、


私たちを出迎えるのは、大原家の名言。こんな斬新な展示、初めて見ました。


こちらは、奥に進むとある「離れ座敷」。世の中の雑踏から離れられる場所って本当は、多くの人々にとって必要なのかもしれません。

 


座敷の前に広がる幻想的な日本庭園は、7代目孫三郎が自ら作庭に関わったもの。こんなお庭が部屋から見えたら思索が深まりそうです。

■倉敷物語館

美観地区の入口に位置する「倉敷物語館」。


普段街を歩いていて、建物の美しさに足を止めることはほとんどないのですが、倉敷美観地区では、思わず足が止まります。

私は、白壁と木の茶色、そして、瓦の色の組み合わせが好きです。日本人だからなのかどうか分かりませんし、なぜそう感じるのか証明せよと言われても、難しいのですが、なんだか落ち着きます。

そして、青い空とも調和して、全く古さを感じなさせないこのデザインは何なのでしょう。

■町並み保存


私は、これから先、日本の古来の美しいものが日本を発展させるカギになると信じています。それは日本だけでなく、ほかの国でも。一度失ったら二度と作り出せない貴重なモノがたくさんあるのに、私達は新しいものの方に目が行きがちです。

そうは言っても、古いものは管理するのが難しく、利便性で言ったら新しいものにはかないません。かくいう私も、祖父・母の家を活かせていません。

そして、残った住む人を失った今、長くは持たないでしょう。

それがとても悔しい。

悔しいけれど、どうしたらいいのだろう?


だんだんと日が暮れていきます。

倉敷を散歩しながら、歴史的建物の保存について考えた一日でした。