【ハンガリー滞在記2019】#9
2019年4月13日後編
■ここまでのあらすじ
時は、2019年。私が20代の頃。語学力が著しく低く、10日以上海外で過ごしたことのなかった、コンサートホールの案内係の私は、一か月間海外で過ごすことに挑戦する。それは、当時の私にとってとてつもなく勇気のいることだった。
長い構想の末(怖くてうだうだ考えていただけ)ついにその思いをかなえるためハンガリーへと旅立つ。しかし、1日目から乗り継ぎの空港で、ハンガリー行きの飛行機に乗り遅れるというミスをしてしまう…。
ようやくハンガリーにたどりつくものの、そこにはさまざまな試練が待ち受けているのだった。
今の自分を形作っているものを挙げろと言われたら、間違いなくこの時の経験だと言える。なので、コンサートホールの案内の仕事を紹介するブログのテーマとは異なるが、あえて記事を書くことにした。
(オレンジ色の街灯が美しいブダペストの夜)
■その夜
日本人の運営するドミトリーに一週間宿泊した後、ハンガリー人の経営するペンションへと宿を移動。語学力が著しく低い私にとって、今回の旅で最も心配していたペンションへのチェックインが終わり、安堵する私。
アンダンテホステルで紹介された食堂で、久しぶりの日本食を満喫。夜、アパートCosy‐Home Budapestに帰り、玄関を開けようとする。が、しかし、
鍵が開かない。
・・・。
部屋を間違えたのだろうか。いや、合っている。鍵が違うのか。そんなこともない。鍵は刺さるし、回すと回るし手ごたえはある。・・・なぜだ?
出かけるとき、鍵を閉めたので、開かない理由が分からない。
夜も遅いし、寒いし、疲れているのに、原因不明のトラブルに玄関の前に立ち尽くすやーぼ。
もし、今、ほかの部屋の人が廊下を通って、ドアを必死に開けようとしている私を見たら、どう思うだろうか。不審者だと思われてもおかしくない。
EVが作動するたびに、いろいろな意味でびくびくする私。
しかし、なぜ開かないのだろう?
ハンガリーは、セキュリティーが厳しいので、アンダンテホステルでもそうだったが、アパートに入るまでに複数の鍵が必要なのだ。それに、オートロックの番号や鍵をひねりながら、扉を開けるなど、ちょっとしたテクニックには、注意を払っていた。
なのに、あと一歩で部屋に入れるという玄関の前で、日本と同じ(ように見える)、扉一つ開けることができないもどかしさ。
こういう時こそ、いったん、開けたいという気持ちを落ち着かせて、ニュートラルな気持ちで鍵を回すのだ。開けようする気持ちが強すぎて、見落としているものがあるに違いない。
ニュートラルな気持ちで、閉めた時と同じように、ただ鍵を回す。すると、
開かない…。
夜なのに、このまま開かなかったら、私はどうすればよいのだろう?幸い、近くにマクドナルドはあるが、それがどうした、早く開け。
壊れているのか、日本と方式が違うのか。私が鍵との親和性に欠けているのか。
分からない、何も分からない。誰か教えてください。しかし、ここにWIFIは飛んでいない。疲れて考える力が失われていく私。もういいや、
よくない。
考えるんだ!考えるとは、悩むことではない。考えるとは、自分に問いかけるということだ。
何が、私を拒んでいるのか。何か打開策があるはずだ。というか、あってほしい。そもそも打開しないという選択肢は存在しない。今の私には、この扉を越えた先にしか安全と安心の空間は広がっていないのだ。
しかし、ガチャ、、、ガチャ、、、、固い。何かに引っかかっているのか、開け方が違うのか、一向に開く気配がない。
時間は刻々と過ぎ、一向に解決の糸口は見えてこない。視点を変えるにも、何も思いつかない。あんまり、無理にひねって鍵を壊してしまったら、と思うと怖くて…悪い想像ばかりが何度も頭をよぎる。
こんなところで、一体私は何をしているのか?
入ろうとするのではなく、開けようとするのでもなく。ただ、鍵を刺し、鍵を回し、そして、ドアノブをひねってドアを開ける。そうイメージしながら、ドアを引くと、
開かない…。
・・・。
なぜ私は、入れないのか?そもそも、開けるとは何なのか?
私はこの扉を開ける鍵を手にしてるのだ。これは大きなことだ。しかし、鍵のほかにまだ必要なものがあるらしい。
不思議なのは、鍵が、右にも左にも回り、いったいどこが起点なのかが分からないことだ。右回しなのか、左回しなのか。
そうこうしているうちに、
あっ、開いた…。
ここまで、ずっと「開かない」を繰り返していたので、読み間違わないように、もう一度言う。
開いた。
なぜかは分からない。とにかく、開いたのだ。私の長い問答は終わった。この時の気持ちを想像してほしい。一難去った私は、すごくすごくほっとした。
■次回
こうして、新たなトラブルを乗り越えた私は、次の日、日本ではめったに上演されることのないオペラを鑑賞しに、ある劇場へ向かいます。
何を隠そう、私は、日本の数々のコンサートホールでお客様を案内する案内係なのです。特に、ハンガリーは日本と違い、歴史のある豪華で、趣のあるホールが多い国。オペラ+劇場への期待を胸に、現地へ向かいました。
そこで、私を待ち受けていた出来事とは…。チケットの売り切れ。
次回、ここは廃墟か?劇場か?
つづく
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