案内係やーぼのブログ

コンサートホールで案内係をしている著者が、出演者・聴衆・スタッフの思いが響き合い乱反射する、劇場の魅力を語ります。

【夏のコンサートホールあるある】客席が寒すぎて演奏に集中できない

みなさま、コンサートホールで案内係をしているやーぼです。

■みなさんは、コンサートを聴きに行った時、客席が寒すぎて、演奏に集中できなかったことはありませんか?

今回は、暑い時期によく起きる「客席が寒すぎる問題」について、コンサートホールの空調事情と対策についてお話します。



■「客席が寒すぎる」

暑い時期、コンサートホールにたどりつくと涼しくて、演奏会に来たんだなーという気持ちになります。(私の場合)

でも、体の暑さも落ち着いて、いざ客席に座っていると「さ、寒い」。それでも、開演前は、客席の扉も開いていますし、人の出入りもあったりして、気のせいかなーなんて思うのですが、演奏が始まると、もう寒くて寒くて、もはや「寒いということしか考えられない」。

そんな経験をしたことはありませんか?そして、そんな時、あなたはどうしますか?

我慢し続ければ、せっかくの演奏会なのに、楽しみが半減するかもしれません。

こんな時には、対策がいくつかあります。

■寒さ対策

1.羽織れるものを持って行く
2.ブランケットを借りる
3.係員に温度調節を頼む

■1.羽織れるものを持って行く

コンサートは、暑い日でなくても、薄手のお召し物の方は多くいらっしゃいます。ですが、どんなに暑い日であっても、「羽織れるもの」を持って行くのが、吉!

小さいホールならいざ知らず、500席以上のキャパシティーを持つ中ホールや100席以上のキャパシティーを持つ大ホールは、会場内がとても広く、客席は複雑な配置になっています。

広大な空間を快適な温度にするのは、簡単ではありません。しかも、客席は、複雑な配置になっているため、場所によって空調が直撃したり、そうかと思えば空調が効いているのかいないのか分からない席もあります。

これはもう仕方のないことなので、羽織れるものを一枚持って行くと快適に過ごせます。クロークにものを預けるときに、ほかのものと一緒に預けずに手に持っていると安心です。(私はそうしてます。)


■2.ブランケットを借りる

ホールによっては、ブランケットを貸し出しているところもあります。コロナ禍で、停止していたところもありますが、徐々に戻ってきているようです。

係員に尋ねるか、クロークに行くともらえる可能性大です。ですが、数に限りがありますし、貸し出していないホールもあります。

でも、羽織れるものを持っていなくて、だけれどもどうしても寒いというときには、訪ねてみるのもありだと思います。

借りたブランケットは、終演時にそのまま客席においておくと見つけやすくて助かるなーと思います。でもそれは、ホールによりますね。

ほかのホールではどうしているのだろう?


■3.係員に温度調節を頼む

温度調節を係員に頼む方法もあります。会場内の温度が快適かどうかを把握するのも係員の業務です。自分の体感や会場内にいらっしゃる方々の様子を見て、極端に温度が高かったり、低かったりする場合は、報告しています。

ですが、公演中は、基本的にロビーなどで業務をして動き回っている係員と、座ってじっと演奏を聴いている聴衆とでは体感温度が違うので、やっぱり寒いなーと思うときには、係員に温度調節を頼むのも一つのアイデアです。


■どうやって伝えたら伝わるのか?

係員に伝える際には、「自分の座席番号」を一緒に伝えるのがポイントです。

例:「○階席○列○番に座っているのですが、会場内がとても寒いので温度を上げてほしい」

よく、「寒くて寒くてこごえそうだから何とかして」とだけ、告げて去っていく人がいますが、その人がどこに座っているのか分からなければ、広大なホールのどこの温度を調節したらよいか分からず、結局そのままになってしまうこともあるので、「自分がどこに座っているのか」を伝えることが重要です。

■温度は、すぐに変わるわけではない

もう一つ心にとめてほしいのが、広大な体積のホールの空調を変えるのには、時間がかかるということです。

多くの場合。係員は、それをチーフに伝え、チーフは、舞台裏にいる舞台監督に伝えます。これだけでも、少し時間がかかり、さらに温度を変えてから、会場の温度が変わるのにも時間がかかります。

なので、2.3分後に「全然温度が変わってないじゃないの!!」と言ってくる人もいますが、そんなに簡単には変わりませんよ。広いんだから。私の体感としては、15分くらいして、なんだか少し変わってきたかもと思うことが多いです。

また、一人の人が意見したからと言って、すぐさま温度を変えましょう、ということにはなりません。

そういう意見があった時には、会場内にいる複数のスタッフに体感を確認し、さらにほかの聴衆の様子も観察します。そして、総合的に判断して、やっぱり温度調節が必要だということになって、初めて依頼をするからです。


■温度調節を無音で行う技術

意外と気づかれないことですが、コンサートホールの空調のすごいところは、温度管理を「無音」で行っているということです。

コンサートホールは、音が命。家庭や事務所の空調のように起動させると、ガーガー、ゴーゴー言っていたら、公演の妨げになります。

そして、聴衆だけではなく、アーティストが快適な状態でパフォーマンスできるようにする必要がありますし、

「人間」が快適に過ごせればいいだけではなく、「楽器」にとっても最適な温度や湿度である必要があります。

コンサートホールでは、それらを全てを満たす必要があるので、簡単ではないのです。

■まとめ

コンサートに行く際は、羽織れるものを持って行くのが基本で、ない時は、温度調節を頼んだり、ブランケットを借りるという手段もある。

係員に伝えるときは、「自分の座席の番号」を一緒に伝えることが重要。

ただし、空調はすぐに変えられるわけではなく、時間がかかる。


■余談


ちなみに、私は以前、個人的に受けた仕事で、かたくなにホールの温度調節を拒むチーフと仕事をしたことがありました。

その公演中、会場内はものすごく寒く、常に動き回っている私たちでさえ凍えるようでした。聴衆からも「会場内が寒い」という意見が複数出ていたので、それを伝えると、そのチーフは突然不機嫌になり「温度調節は絶対にしない」というのです。

実は、以前にもそのチーフは、多数の温度調節の依頼があったにも関わらず、それを拒否したことがありました。そして、そのたびに終演後のクレームにつながりました。

そのチーフの言い分としては、「暑いと感じるか寒いと感じるかは人によって違う」「寒いと言ってくるほうがおかしい」というものでした。

結局その日も、温度調節はできたにも関わらず、行われないまま、終演を迎えました。そして、案の定、終演後するなり、多くの方から「寒くて寒くて演奏どころではなかった」という意見が殺到しました。

私は、それを聞いてとても残念な気持ちになりました。公演に至るまでにどれだけの時間や労力を費やして、アーティストがこの日を迎えたか。

その芸術を聴衆が快適な空間で受け取り、楽しむために、名もしれぬたくさんの人たちが尽力しています。これは、いずれ別の記事でお話しようと思いますが、公演を支えるということは、過酷なことです。

それなのに、最後の最後、この音が聴衆に届くというところで、寒くてそれどころではない状態を回避できなかった。

この公演に関わった、すべての人の努力を台無しにしたように感じました。

そのチーフは、今でも同じ態度でいると思います。理由は分かりません。

たかが空調、されど空調。私の空調管理にかける思いについてお話しました。