案内係やーぼのブログ

コンサートホールで案内係をしている著者が、出演者・聴衆・スタッフの思いが響き合う、劇場の魅力と影を語ります。

選ばれる体験を作る ―フォトスポットが持つ可能性―

すでに来てくださったお客様に、何を返せるのか

私は、公演において大切なのは「来てくださったお客様に、どれだけ価値ある時間を過ごしていただけるか」だと考えています。

集客できなかったことを嘆くよりも、今ここにいるお客様の体験価値を最大化すること。

すでにチケットを買ってくださった。
時間を作ってくださった。
そして、劇場まで足を運んでくださった。

その方々に、私たちは何を返せるのか。

舞台そのものはもちろんですが、劇場に到着してから帰るまでの時間も、公演体験の一部です。

せっかく足を運んでくださったお客様には、「来てよかった」と思える時間を120%楽しんでもらいたい。

そして、その体験が次のお客様につながるきっかけになるのではないかと思っています。

その方法の一つとして、私はフォトスポットに可能性を感じています。

写真撮影禁止でも、思い出を残す場所は作れる

現在、多くの劇場では公演中の写真撮影は禁止されています。

もちろん、作品を守るために必要なルールです。

しかし、だからといって「写真を残す文化」までなくす必要はないと思います。

大切なのは、撮影してはいけない場所を増やすことではなく、撮影してもらいたい場所を意図的に作ることです。

今の時代、誰かがどこかへ行った時、その記録を写真で残し、SNSで共有することは当たり前になりました。

夏休みの宿題でさえ、行った場所の証拠写真を求められることがある時代です。

「そこに行った」
「その時間を過ごした」

という証を残せることは、体験の一部になっています。

本当に求めているものは、言葉の奥にある

以前、アイドル公演の裏方を担当した時のことです。

公演の節目のお祝いに、制作会社の社長が出演者へケーキを用意したいと言いました。

何が食べたいか聞いたところ、彼女たちは「チーズケーキかな」と答えました。

でも、私はチーズケーキを選びませんでした。

もちろん、おいしいチーズケーキは素敵です。

ただ、彼女たちが本当に欲しかったものは、単純にケーキを食べることだけではないのではないかと思ったからです。

そこで選んだのは、カラフルなフルーツタルト。

さらに、クッキーに名前を入れてもらうサービスも利用しました。

結果、出演者の皆さんはとても喜んでくれて、そのケーキとの写真をSNSに投稿していました。

「スタッフの方から素敵なお祝いをしていただきました」

という形で、公演の裏側の温かい出来事が外へ広がったのです。

この時感じたのは、人は「物」だけを求めているわけではないということです。

特別感。
記憶に残る瞬間。
誰かに伝えたくなる出来事。

そこに価値があります。

情報ではなく、体験として残る仕掛けを

これは、お客様にも同じことが言えると思います。

例えば、プログラムにはキャスト情報が載っています。

でも、わざわざプログラムを写真に撮って投稿する人は多くありません。

一方で、ロビーに素敵なキャストボードがあったらどうでしょうか。

きっと、思わず写真を撮る人がいるはずです。

その一枚が、出演者の名前を知らなかった誰かへ届くかもしれません。

他にも、舞台で使った小道具を展示した扮装コーナー。

扇子やマント、仮面などを自由に撮影できれば、お客様自身が少し作品世界に入り込むことができます。

背景や大掛かりな装置を用意するのは難しくても、小さな仕掛けなら作ることができます。

大切なのは豪華さではなく、「参加できる余白」です。

公演は舞台の上だけで完成しない

以前、劇場で旗を持って写真撮影できるフォトスポットを見たことがあります。

たった一つの旗でも、お客様は楽しそうに写真を撮り、その場所でしか残せない思い出を作っていました。

公演は、舞台の上だけで完成するものではありません。

劇場へ向かう時間。
ロビーで過ごす時間。
開演前の期待。
終演後の余韻。

そのすべてが体験です。

そして、その体験が外へ共有されることで、内輪の盛り上がりで終わらず、新しい人へ届いていく。

お客様に「宣伝してください」とお願いするのではなく、自然と誰かに伝えたくなる瞬間を作る。

それが、これからの公演に必要な「選ばれる体験」の一つなのではないでしょうか。