案内係やーぼのブログ

コンサートホールで案内係をしている著者が、出演者・聴衆・スタッフの思いが響き合う、劇場の魅力と影を語ります。

もう一度二十歳に戻れるなら〜私がやり残したこと〜

■成人の日

コンサートホールや劇場では、学生さんもたくさん働いているので、前撮りや成人式の話題で盛り上がります。

 

かわいいし、美しいなーと思うだけでなく、それぞれのドラマが垣間見えて、感慨深い気持ちになります。

 

未来は誰にも分からないからこそ、その一瞬一瞬が尊いのだと思います。

 

■私の成人の日

 

ちなみに私の振袖の写真はありません。

 

 

撮らなかったので。

 

 

私は、着物がとても好きで、その後着付けの仕事もしますが、振袖の写真もなければ、成人式にも出席していません。

 

私の家は、記念日に写真を撮る習慣がなく、私が選んだ着物を母が気に入らなかったため、用意できなかったのです。

 

その頃は、大学の授業やコースの試験などもあり、着物を一人で探して選んでという作業は負担が大きく結果的に諦めざるおえませんでした。

 

他の人達はどうやって見つけたのだろうと思いますが、一馬力でやるには負担が大きすぎました。

私は着物が好きだったために、とても残念でした。

 

■着物はいつでも着られる?

 

よく、「着物はいつになっても着れるから」と言う人がいますが、20歳という節目の年に着るのが大切なのであって、30歳や40歳になってから着ても意味が違いますし、その瞬間の若さや輝きは、後から取り戻せるものではありません。

 

それと、自分の娘が選んだ着物の色が派手で気に入らなかったという親御さんもいますが、私は、色なんて何でもいいと思います。本人が納得しているのですから。

 

もう大人なのですし、娘はお人形さんではありません。

 

それと、「お母さんやおばあさんの言う着物にすれば間違いない」とか「二十歳の着物は、育ててくれた人のためで自分のためではない」と言う人もいます。


もちろん、私が母で、自分の娘が私の納得できないデザインを着たいと言ったら反対するでしょう。私は、着物に対するこだわりが強いので。

 

でも、人によって、立場によって、時代によって、考え方は違って当然ですし、正解はありません。

 

そもそも、前撮りをしたり、成人式に振袖を着るという今日の習慣も企業が作り出した営業戦略に過ぎません。

 

振り袖が着られなかった身からすれば、本人が納得することが一番だと思います。

 

■私の存在はいとこ以下

 

ちなみに、私の二十歳の着物には後日談があります。

 

数年後、私のいとこが台湾で結婚式を挙げた際、振袖をレンタルしました。私は、参加していなかったのですが、その着物は素晴らしく、母の姉妹もその美しさに感心したそうです。

 

その後、母から「せっかくのいい着物だから、これを着て写真を撮ったら」と電話がありました。

 

この出来事を、みなさんがどう受け取るか、私は分かりません。人それぞれだと思います。

 

私は、その提案を断りました。

 

その着物は、いとこが結婚式のために選んだ特別な着物であり、私が「自分の二十歳の写真」として使うものではないと感じたからです。

 

他のいとこが喜んで写真を撮るのは自由ですが、私にとってそれは自分の二十歳を補うものにはなりませんでした。その電話の後、涙が止まりませんでした。

 

その着物が安価か高価かは関係ありません。その着物は、いとこの結婚式のためにいとこが選んだ、いとこを引き立てるためのものです。

 

それを、突然電話してきて、せっかくだから着たらって、、、

 

ちなみに、他のいとこは着たいと言って、喜んで写真を撮ったようです。

 

ですが、そのいとこは、自分の二十歳の着物の写真をすでに撮っていました。プラスアルファで、他の着物も着たいというのは、ありだと思います。  

 

ですが、私は自分の二十歳の着物の写真はありません。

 

それで、他の人が娘の結婚式のために選んで、お金を払った着物が使い終わったから、それを着ればって、なんかひどくないですか?

 

私はその程度の存在なんだ。。と改めて思いました。

 

自分の娘に着せる分、お金を出すと言ってくれていたら、私は着物を着たと思います。でも、身銭を切らなくていいからラッキーと言う感覚で、そういうことを提案されても、嬉しくもなんともありません。

 

■私の気持ちを尊重してほしかった

 

私が求めていたのは、ただ形だけの振袖や写真ではなく、自分の気持ちに寄り添ってくれる存在でした。

 

私はただ、「自分の選んだ着物を着て写真を撮る」というプロセスそのものを大切にしたかったのです。

 

■その後、レンタル着物屋さんで働く

 

私は、その数年後、着付師の資格を取得し、レンタル着物の激戦区で着付けの仕事をしました。

 

ざまざまなお嬢さんに着物を着せ、喜んでもらえました。

 

成人式の写真は?と聞かれたら、着物の教室の卒業制作でモデルのお嬢さんに着せ付けた写真を見せます。

 

自分が着ているのではなく、自分が着せた人の写真を大切に保管しています。

 

■記念の日

 

施設で育った人は、着物を着るという選択肢すら持てない人が多いので、選べる時点で恵まれているといえばそうだと思います。

 

でも、それを言い出したらきりがないので。

 

私が言いたいのは、記念の日に見栄を張ったり、お金をかければいいという話ではありません。ただ、そういう日のために用意される、サービスや商品は、その人のそれまでの道のりや生き方、考え方を尊重し、これから先の未来に送り出すための区切りとして役割を持っています。

 

誕生日、卒業式、成人式など区切りを人工的に作り、「あなたは大切で価値のある存在だ」というメッセージを受け取ることが、実は大事なのかもしれないと思っています。

 

なんということはない一瞬や一日を一旦立ち止まって、一つの枠から捉え直し、それを繰り返すことで密度濃く生きられるのではないかと。

 

もう一度二十歳に戻れるなら、私は自分で納得のいく着物を選びたいと思います。それがどんなデザインであっても、他人にどう思われても、本人が納得できる選択をすることが一番大切だと思うのです。